「人生会議」の炎上で考えたい2つのこと

 

厚生労働省が作成した、「人生会議」の以下のPRポスターが議論を呼んでいます。

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「人生会議」とは、“人生の最終段階において自分の望むことをあらかじめ大事な人と話しておくこと”であり、数年前から厚労省により普及活動が行われています。

その一環として、11月25日厚労省によりお笑い芸人である小藪氏を起用した「人生会議」のPRポスターがネット上で公開されました。

ところが、そのポスターに対してがん患者支援団体などからの非難が相次ぎ、公開後わずか1日で自治体へのポスターの発送を中止する決断を余儀なくされました。

一体何が問題であるのか、お騒がせ厚労省がまた何か不祥事をやらかしてしまったのか?

僕は今回議論すべきポイントは以下2点にあると考えています。

・ポスターへの批判は妥当であるのか

近年SNSの発達により、いわゆる“マイノリティー”と呼ばれる人々の主張が世間に届くようになりました。

それにより時に、“マイノリティー”側の意見があたかも多数派であるかのような受け止められ方がなされるようになり、“マジョリティー”側との衝突も生じ始めています。

今回もその兆候が見られますが、果たしてどちらに理があるのでしょうか。

・なぜ厚労省はわずか1日で撤回したのか

多額の予算を使って作成したポスターですが、わずか1日で白紙に戻りました。

あまりにも脆すぎると思いませんか?

死というセンシティブな話題には批判はつきものですが、まさか厚労省は批判を想定していなかったのでしょうか?

真相に迫りたいと思います。

 

ポスターへの批判は妥当であるか

まず、今回厚労省に真っ先に送られた抗議文を2つ紹介します。

がん支援団体代表者による抗議

BuzzFeed Japanの記事によると、卵巣癌体験者の会「スマイリー」代表者である片木美穂は、厚労省の医政局長や地域医療計画課在宅医療推進室長、PRポスター担当者あてに、以下のような抗議文書を送付しました。

がん=死を連想させるようなデザインだけでもナンセンスだと思いますが、このような強い後悔を感じさせる恐怖感を与えることで本当に「人生会議」をしようと思うのでしょうか?

これを目にする治療に苦慮する患者さんや残された時間がそう長くないと感じている患者さんの気持ちを考えましたか?

そしてもっと患者と話をすれば良かったと深い悲しみにあるご遺族のお気持ちを考えましたか?

患者が旅立つ際に医療機関や在宅の場で立ち会うこともあり、どれだけ家族で話し合っていたとしてもご遺族が「もっと話し合っておけば」と悔やまれ深い悲しみを感じておられる姿を見てきています

 

上記の片木氏の主張を一言でまとめると

”ポスターはガン患者や遺族の気持ちを全く考慮しておらず極めてナンセンス”

と言ったところです。

常に死と直面した方々と寄り添っている方だけに怒りの強さが伝わってきます。

しかし正直僕には違和感しかありませんでした。

まずこの文書を読んで真っ先に感じたのが、

「あれ、このポスターってがん患者向けだっけ」

ということです。

片木氏は冒頭で

 「がん=死を連想させるようなデザインだけでもナンセンスだと思いますが」

と綴っていますが、このポスターを見て死=癌と結びつける一般人は殆どいないのではないでしょうか。

実際このポスターは、小藪氏が死に直面する際に家族と事前に何の話し合いもしていなかったことを嘆いている様子を表しており、癌とは何の関係もありません。

恐らく片木氏は、がん支援団体に従事するがゆえに近視眼的な見方に囚われてしまったのでしょう。

 また最後の3行↓に特に顕著に現れていますが、片木氏は「人生会議」の意味を恐らく理解していません。

患者が旅立つ際に医療機関や在宅の場で立ち会うこともあり、どれだけ家族で話し合っていたとしてもご遺族が「もっと話し合っておけば」と悔やまれ深い悲しみを感じておられる姿を見てきています

人生会議は、まさに将来的に上記で言及されているような人が

「家族ともっと話しとけばよかった」

「伝えたいことあったな」

と後悔することを未然に防ぐための啓発活動であり、その意味がPRポスターに込められているのではないでしょうか。

このような人々に配慮して表現を曖昧にして知っては、本末転倒です。

がん遺族者による抗議

またすい臓がんで夫を亡くした経験のある石森恵美氏も、厚労省に抗議文を送ったといいます。

手紙の内容は分からないですが、BuzzFeed Japanの記事に石森氏への取材内容が記載されているのでその一部を抜粋します。

死や死にゆく人を茶化すような表現は、関西弁を使ったり、お笑いの人が登場したりしていることを考えてもおかしいですし、関西の人だって死や病気になって生きることに真剣に向き合っているはずです

小藪さんのファンの子どもたちがこれを見て、誤解してしまうのが怖いです。表面だけみて、笑いや薄っぺらい誤解のもとに患者と家族の関係を捉えてしまったらどうするのでしょうか?

一方で、脅しやネガティブな表現で、人生会議を広めようとしていることも気になります。誰に伝えたいのか、人生会議の主語がこのポスターではわからないこともモヤモヤします。病院などに掲示されて目にした時に、誰が何を誰と話し合うのか、きっと伝わらないでしょう

 

石森氏の発言の趣旨は以下3点です。

・ポスターの外見がふざけており、死にゆく人々への敬意にかけている

・中身の文面も脅しているようだ

・誰に伝えたいのかが分からない

先ほどの片木氏の抗議文と比べるとかなり理解できる部分があります。

確かにどうしても吉本芸人や関西弁にはお笑いという要素が強すぎて、ふざけているように捉える人もいるでしょう。

(これは在京メディアが関西に貼り付けたレッテルも一因としてあると思いますが)

 また小藪氏の心の叫び自体も切羽詰まったものであり、ポスターからだけでは誰に伝えたいのかは分かりません。

でもよく考えてみてください。

このポスターの目的は、死を迎える前に家族ときちんと話し合う必要性を訴えかけたものです。

そして恐らく厚労省の「人生会議」HPを見る限り、このポスターは“予期せぬ死に対してあまり考えたことのない人々”へ向けたものであって、“常に死と巡り合わせである患者”に主眼を置いたものではありません。

無関心な人を動かすには、危機感を煽るなり外見にインパクトを与えるなりしないと効果がありません。

だからこそお笑い芸人である小藪氏を起用して関西弁でまくしたてさせたのでしょう。

また、死にゆく人への敬意に欠けていると言いますがそれを意識しすぎたら何も伝わりません。

↓のような無難なポスターであれば、多くの人々の心には響かないでしょう。

 

 厚労省は発送中止すべきだったのか

結論から言うと、ノーです。

そもそも死というセンシティブな話題の扱いであるゆえに、厚労省も事前に批判は織り込み済みであったと思います。

それなのにたった1日しか持たずに撤回とは情けない限りです。

しかし理由は後述しますが、厚労省にも同情の余地はあると感じます。

なぜたった1日で炎上したのか

突然ですが、 

25日の「人生会議」のポスター公開日に厚労省のサイトに真っ先に飛びチェックしたのはどのような人々だと思いますか?

まず99%の日本人は違います。そもそも知りません。

今回の騒動で初めて存在を知った人が殆どです。

では誰?

僕が思うに、↓の2パターンの方々ではないでしょうか。

・「人生会議」の制作関係者(委託先である吉本興業厚労省担当部署等)

・「人生会議」に元々批判的である外部の人々(がん支援団体等)

 

ではさらに、このうちSNS上で積極的に意見を発信するのはどちらでしょうか。

間違いなく後者の、「人生会議」に元々批判的であった外部の人々です。(前者では、SNS発信は広報に任されおり個人単位では発信しません)

そして当然っちゃ当然ですが、彼らのSNS上の投稿を読む者といえば彼らのフォロアーである遺族などです。

すなわち、フォローする偉大な先生方が右といえば右、左といえば左を向く、いわば彼らのファンです。

もちろん何も考えることなく同調して、自らも批判的な投稿をするでしょう。

そしてその批判的な投稿を見た、特に関心のなかった友人なども何の気なしにリツイートなどで拡散してしまいます。

このように最初は本当に小さな声だったのに瞬く間に大きな声になってしまうのが、SNS時代の怖さです。

正直今回のような賛否両論のあるテーマの発信者にとってはこの上なく厄介な時代でしょう。

とどめを刺したは誰?

では最終的にここまで炎上させた存在は何でしょうか?

答えはメディアです。

今回の報道を見ると殆どのメディアが厚労省に否定的であり、中止を求めるがん支援団体を肯定的に報じています。

「確かにポスターは酷い、訴えたくなる気持ちもわかるよ」

といったように、あたかも“弱者”の視点に寄り添い“強者”の悪事に対抗しているかのように振る舞う記事が実に多いです。

例えば 11月27日配信の以下のAbemaニュース記事の見出しをみてください。

ord.yahoo.co.jp

人生会議」ポスター発送中止 「死ぬことはキレイ事じゃない」若新雄純氏、厚労省に苦言「なかったことにするのは残念」

 

 ↑のような見出しをみると、若林氏がまるで厚労省を全面的に否定しているように感じられます。

しかし実際に記事を読んで頂くと分かるのですが、若林氏が言っていることは全然違います。

趣旨は以下です。

「タブーとされる死への議論へ踏み込んだ厚労省の姿勢を評価したい、ただやるからには批判に惑わされずに最後まで頑張って欲しかった」

 

要するに若林氏は、厚労省の不甲斐なさには喝を入れているものの、「人生会議」の取り組みやPRポスターに関しては肯定的な見方をしているのです。

それにも関わらず、最も重要である記事タイトルに上記のような見出しをつけたしまったことで、読者を大いに誤解させてしまっています。

これを斜め読みした多くの読者が、

「識者だって否定的だからやっぱり厚労省が悪いんだ」

と誤解したことでしょう。

今回に限った話ではないですが、メディアの悪意ある編集により真意が伝わらずに歪曲されてしまうことが多々あります。

さらにタチの悪いことに、メディアの影響力はいまだに健在であるゆえに、誤った認識が加速度的に拡散していって最終的に世論が形成されてしまう恐れだってあるのです。

最後に

今回の「人生会議」の取り組みは、やはり失敗といえるのでしょうか…

 

僕は決して失敗ではないと思います。

確かに反発を受け、わずか1日で発送を中止しまったことを踏まえると失敗といえるかもしれません。

しかし、「人生会議」という取り組みの内容を世間に周知し、今まで死に対して意識することがなかった人々が考えるきっかけを形成したという意味では成功といえるのはないでしょうか。

これは起用された小藪氏はもちろんのこと、「人生会議」のプロジェクトに関わっている吉本興業厚労省の功績です。

小藪氏は、批判的な声に悲観することなく逆に堂々と胸を張るべきです。